本日(5月31日)は「生後0日児遺棄等事件」について、名古屋地裁で判決が出る日です。「求刑5年」ということで、量刑に関心が向くところですが、日本の「妊娠葛藤」を支える制度の脆弱さや、妊婦の意思決定に伴うさまざまな障壁についても、目を向けていただければと願い、当プロジェクトとして声明を発表しました。
同じような事件を繰り返さないために、国に対して4つの要望も提示しました。
ActionforSafeAbortionJapan(ASAJ)
(国際セーフ・アボーション・デーJapan プロジェクト内)
■国と社会の責務:女性を加害者と呼ぶ前に
生後0日児遺棄等事件の報道が続いています。
多くのケースで、女性は誰にも相談できず、一人きりで出産し、加害者として裁かれています。生まれてまもない0日児の遺棄はいたましく、このような事件は起きてはならないと心から思いますが、孤独と不安の中で妊娠期を過ごさなければならなかったことを思うと、女性の心身にも保護とケアと適切な助言が必要であったと考えざるを得ません。 女性を加害者にする前に、国と社会にできることがたくさんあったはずです。
■愛知県西尾市のケースについて
最近、生後0日児を遺棄したとして、21歳の女性に懲役5年が求刑されました。今日5月31日に判決が予定されています。
報道によると、女性は「妊娠に気づき父親とわかっていた小学校の同級生に伝え合意の上で中絶手術を受けることになった。病院から同意書に相手のサインをもらうよう言われたが、同級生からサインをもらえず手術できなかった。その後、同級生とは連絡が取れなくなった」「周りに相談できていれば赤ちゃんは死ななかったと思う」と述べています(資料①)。
弁護士も「妊娠を誰にも相談できなかったほか相手から中絶手術の同意を得られず、病院からも適切なアドバイスを受けられなかった。被告1人が責任を負うのはあまりにも酷だ」と主張しました(資料②)。
女性は相手のサインがないことを理由に中絶の選択肢を断たれ、学業を続けながら妊娠を継続する道や、自ら産み育てる可能性、里親や養親に託す選択肢などを検討する機会もないまま出産を迎えました。
女性と子どもは、さまざまな支援と選択肢につながる権利があったはずです。葛藤を抱える妊婦に対する社会の仕組みは脆弱です。
■相手男性の同意は必要なかったのではないか
さらに未婚女性の場合、相手男性のサインがなくても、法的に中絶できる可能性がありました。
母体保護法14条は、中絶に配偶者(事実婚含む)の同意を求めていますが、婚姻していない場合、相手男性の同意を求める規定はありません(資料⑦)。厚労省は2013年、日本医師会に対し「婚姻しておらず配偶者のいない女性については、配偶者の同意は不要」と回答しています(資料⑧⑨)。
また、母体保護法の条文には「配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき」には、本人同意のみで中絶できる規定があります。
この女性は、相手男性と事実上連絡がつかなくなり、その意思を確認することも事実上できなくなりました。「事実上」できないということは、厚生省(当時)が1996年の事務次官通知で、「その意思を表示できないとき」として例示したものに該当します(資料⑩)。
いずれにしても、当該女性は、母体保護法上必要のない“相手男性の同意”を義務づけられた疑いを拭えません。
■意思決定の障壁の排除を
相手の男性は、連絡を断ち、関わりを避けて女性を放置しました。医師はトラブルをおそれ、相手男性のサインを求めました。結果として、女性は妊娠継続を余儀なくされ、生後0日児遺棄に至りました。
犯した罪は裁かれなければなりませんが、母体保護法14条の「配偶者の同意」規定と、それを未婚女性にまで拡大運用する法のあり方は、リプロダクティブヘルス&ライツの障壁となり、生後0日児遺棄等事件の発生に深く関わっています。
また、事件に関わった女性は、逮捕時は出産まもない時期であり、現在も出産後一年に満たない状況です。どのような事情があっても、必要なケアと保護の対象であることが忘れられてはなりません。
生後0日児遺棄等の事件が繰り返されないために私たちは国に次のことを求めます。
未婚女性の中絶は、相手男性の同意が不要であることを周知徹底してください
母体保護法の配偶者同意規定は、それ自体が妊婦の意思決定の障壁なので廃止してください
妊娠した女性が学業やキャリアを中断することなく、中絶・出産・養育について十分に相談・検討・選択する機会を、制度として保障してください
誰の助けも得られぬまま一人で産み、生後0日児を救えなかった女性に、心と体のケアや保護が必要なことを理解してください
【資料】愛知県西尾市の事件①〜⑥、母体保護法「配偶者の同意」⑦〜⑩
①NHK 2021年5月21日
赤ちゃん遺棄事件裁判 妊娠後の経緯や状況語る
②NHK 2021年5月25日
③メーテレ(名古屋テレビ) 2021年5月21日
④東海テレビ 2021年5月25日
⑤中京テレビ 2021年5月25日
⑥産経新聞 2021年5月25日
⑦母体保護法
⑧医報とやま1593号 2014年2月1日
⑨毎日新聞 2020年7月4日
⑩厚生省事務次官通知 1996年9月25日
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